妻と共に設立した「日々」と、クリエイティブ集団「SIBO」という二つの異なる顔を持つ建築家、富田晨氏。京都・美山町に暮らし個人の思想を表現する場としての「日々」と業界全体の発展を目指すコレクティブ「SIBO」の両輪で活動しながら、京都のものづくりを次世代へと拡張しようと試みている背景やこだわりについて伺いました。
建築家、富田晨が語る、京都におけるクリエイティブの可能性と建築の未来
建築家としての使い分け
ー現在のお仕事について聞かせてください。
現在は京都・美山町の茅葺き民家に住んでおり、妻と一緒に「日々」という名前で活動し、また京都の同世代のものづくりに関わるメンバーが集まってできた「SIBO」というコレクティブユニットで活動しています。
日々は、僕が今までやってきた建築と妻がやっている陶芸の延長線で、僕らの暮らしの中で生まれるものづくりをはじめ言葉や写真、ライフスタイル全体、ある種のプロデュースや企画も手掛けることを目指しています。日々は、僕ら個人の暮らしやそれぞれのバックグラウンドに基づいた表現を追求する場所として切り分けています。
SIBOは日々と立ち位置が別で、京都の仲間たちやコミュニティ、そして産業全体を盛り上げることに焦点を当てています。業界のことや異業種との交流なども考え、公共性を担う側面が強いですね。
本来両方が一体であるのが理想かもしれませんが、そうすると「純粋にものを作りたい」という感覚と、「いろんな人たちと一緒にやりたい」という公共性を考える人格が僕の中で混ざってしまい、アウトプットがどっちつかずで凡庸なものになってしまう恐れがあります。公共性を語ろうとすると、ある種のわかりやすさやキャッチーさを求めざるを得なくなって本当に表現したいものができなくなる恐れがある。だからあえて二重人格的に、活動を分けています。

業界を超えた対話で長い暮らしを見据えた余白をのこす
ー建築を考える上でのアプローチや工夫はありますか?
建築の学問としてどうあるべきかというのを主軸に置くこともありますが、それだけだと学問の中での発展や批評で終わってしまう。それは面白くないし、批評軸も発信がないのではと感じています。
条件も様々なので単一の方法論はありませんが、建築学的な視点もあれば、その人の暮らしが強く表現されるアプローチもありますし、何を主軸に置くかは案件ごとに変えています。
特に重要視しているのが構造家さんとの対話で、簡単にいうと「建築がいかに長く愛され、残り続けるか」というのが建築のテーマです。例えばお施主さんに「住宅作ってくださいよ」と言われそれを住宅として作ると、結局次も住宅としか使われない箱になっちゃうんですよね。構造体が店舗、集合住宅、ゲストハウスなど違う用途も包括できるように設計されていれば、対象が広がり、長く残り続ける可能性が高くなる。「その構造がいかにその場所において持つべき姿を持っているか」を考えるとなると、構造視点では構造家さんでアイデアがあるし、そうじゃない部分はむしろ私がお施主さんとヒアリングを深めるというところで可能性を探っています。例えば、美容師さんの自宅兼店舗の案件では、話を聞いていくうちに、美容師の仕事の寿命もあることから、「最終的には焼酎バーやそば屋をやりたい」という話になりました。
そのため飲食店営業も可能な作りと住宅の併用ができる建物に設計しました。それはヒアリングにより、その人がやりたいことを抜き出した結果+α要素が出てきて、空間化すると普通じゃないおもしろい建物ができるっていう取り組みでした。
「実際に使ってみて将来こういうことも起きるかもしれないから想定しておこう」みたいな、ユーザー目線での話は建築家からはなかなか出てこないんですよ。建築に必要な要素は、実際に使う人と話す方が絶対に議論が伸びます。にも関わらず、昨今の業界にはミリ単位の完璧な美しさを追求しすぎて、一切手を加えてはいけないような空間を作ってしまう建築も少なくない。それはもはや彫刻であって建築ではないと僕は思います。建築家はデザイナー寄りというか、社会のすべてを包括したものをつくる人間であるべきだったのに、ある種の作家的になってから、ちょっとずれていく感じはしますね。業界自体が偏りすぎている感覚があるので、異業種の人たちと協働することで世の中に本当に必要とされているものを作り、それに対する批評の場をつくりたいですね。
またものづくりの時に「ちょっとダサくする」とか「ちょっとやぼったくする」というのもキーワードです。自由度の高い空間の中にきっかけをつくると、勝手に使うこともあるし、誤認して違う使い方をすることもあるから、完璧すぎるよりは余白を残し、完成しきらない状態をつくる。使う人がその空間を使いながら必要な要素を見つけ、手を加えられるようにしておくのが大事だと思います。

写真:大西悠生(@yukionishi)
ー実際に建築に関わられた物件で、上記のお話がどのように実践されているかお聞きしたいです。
kenobiと初めて関わらせてもらった「氵庵-sanzuian-」では、代表の中野さんから「ブランドの主となる要素」、つまりスターバックスのロゴや緑のカラーのように、フラッグシップから複数展開していけるような要素を作ってほしいということでした。そこで設定したのが、和室に置いてある僕らが「ガンツ」と読んでいる黒い塊と、手前の日本の伝統的な柄を編み込んだカーテンの二つです。これらが氵庵を象徴とするキーアイテムとして機能し、どこに展開してもブランドを表現できるように考えました。
ー今回関わられているお店はどのような場所なのでしょうか
京都・四条西洞院付近にオープンするレストラン「ikuta」の建築に関わっています。このお店はオーナーの大ちゃん(安部大樹さん)が独立して開く店で、彼は料理だけでなくこれからの京都を想う思想的にも僕にとても近い人です。このプロジェクトのすごいところは、ロゴ、写真、ディレクションに、業界の著名な方々が大ちゃんのファンとして関わっている点です。大ちゃんの料理だけでなく、そのバックにある思想に共鳴している人が多いんですよね。
メインは食事やお酒を楽しむ場所ですが、ここに来る人たちと交わされる会話は、僕らが話しているような思想的な話が繰り広げられる場所になるだろうと期待しています。なかなかそういう場所は京都にないので、僕ら世代が同世代だけでなく上の世代と出会える、交流の場にもなると思います。
建築テーマとしては、「いかに木造の建物を都市的に作るか」を考えました。木造でありながらも、RC造(鉄筋コンクリート)のような雰囲気を持たせる。また、開口部を公園に大きく開けるように設計し、都市的な表現を目指しています。ここはレストランですが、「公園の一部」や「都市の余白」のように、レストランっぽくない設計にしています。若手の力を引き上げ、専門性の分断を超えるために。

--今の取り組みを通して今後目指していきたいものはありますか。
SIBOに関しては当初、「何かやりたいよね」と集まる純粋なコレクティブでしたが、活動する中で京都の若手のものづくりの課題の可能性に気づき、「使命」が生まれてますね。

東京の方が仕事が多く世界に出やすい土壌がある中で、たまたまの流れもありましたが、今京都は、同世代の仲間や海外からも京都をいいと思う人が集結していて、日本においてもう一つのものづくりの拠点になる可能性があると思います。僕らだけでなく、まだ世に出ていない同世代の子たちもいるし、みんなで一緒になって仕事のパイを広げたり、共有したりしたい。SIBOの立ち上げは、京都にこういうクリエイティブな人間がいることを示す第一形態で、最終的にはそれが霧散し、もっと大きな場で「京都でものづくりしている人はこうだ」という集団性が確立されればいいなと思っています。僕らの周りのクリエイターたちも、仕事の寿命が短いと感じていたり、一つの軸だけではパイが減っていくだろうという危機意識もあるんじゃないかな。そういう人たちが僕らが使命感を持って発信した時に、SIBOの活動に共鳴したり、上の世代の方に話すと「お前ら最高やね」って言われてフックアップしたりしてくれているなあと感じます。
そしてそのきっかけとなるのが、現在一乗寺で進めている施設の完成です。そこで僕らが掲げる京都のものづくりのパイの拡張や、世界に発見してもらうといったことが表現できたら、この30代の活動としては理想です。40代になった時はその実践を学問に昇華する、つまり論文化したり、もっと広げるという活動にシフトしていくと思います。30代から40代前半で実践し、40代後半からはそれを広めて学問として残したいです。
そして、僕らの輪の中には限界があるので、同じ思想を持つ人を日本各地で見つけたい。面で広がっていければいいなと思います。その際、僕らのようにコミュニティを作る人もいれば、それを学問に昇華する人もいるでしょうが、とにかく思想を持つ人たちと繋がって話すことが重要だと考えています。専門的な人に対してだけでなく、一般の人たちにも伝わる言葉を持ち合わせて対話し続けること。メディアを通して、建築家が「変なことを言っているぞ」という違和感を残しつつも、わかりやすい言葉で本質的な話を届けたい。専門性を打開して分断を生むのではなく、社会全体に向けて開かれた議論を生み出したいと思っています。っていう話をしましたけど、まだまだこれが5年経って成立しているかどうかを見てもらえたらと思います。(笑)

【富田晨】
1994年大阪生まれ。2020年京都工芸繊維大学大学院卒業。STÜCHELI(スイス)、木村松本建築設計事務所を経て独立。「日々」主宰。京都美山町の築二百年の茅葺き民家に住み、人の持って生まれた感覚を大切にしながら、古建築を研究・参照し、時代を超えて残り続ける建築を設計。(@tomikun55)