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      日本のお茶文化発祥の地で、再び見つける自分好みのお茶。【インタビュー/7T+代表 中野賢二さん】 #この場所と繋がる瞬間 vol.2

      日本のお茶文化発祥の地で、再び見つける自分好みのお茶。【インタビュー/7T+代表 中野賢二さん】 #この場所と繋がる瞬間 vol.2

      新進気鋭のクリエイターやアーティストとのコラボレーションを通して、日本文化の美しさや奥ゆかしさ、淑やかさといった新たな側面を提案する『氵庵 -sanzuian- 』。

      この場所で提供しているお茶は、同じく京都で日本のお茶文化を発信する、茶葉専門店「7T+」によるプロデュースです。

      7T+のオーナーである中野賢二さんに、お茶を通して日本文化を発信することの価値や、この場所で世界のお茶を提案することの意味をお話しいただきました。

      お茶が主役となる店づくり

      四条通から一本裏手に入った綾小路通に、常時80種類ほどのお茶が並ぶ茶葉専門店「7T+(セブンティープラス)」はあります。

      黒で統一された店内の真ん中には、真っ白なタイルが貼られたカウンター。その上には、シャーレのような容器に茶葉だけが入れられ並べられています。

      「お茶のショップというよりかは、工場併設の展示室や、インドとか中国、台湾のテイスティングルームのようなイメージです。お茶農家さんって、普段は田舎で暮らしながらひたすらお茶に向き合うといった、とても質素な生活をされています。そんな方々に『ここで自分のお茶が売られている』と誇りに思ってもらえたり、ちょっとした家族の自慢になれるような、お茶が主役になるお店にしたかったからです」

      日本のお茶だけでなく、中国や台湾などの世界のお茶を幅広く取り扱う7T+。

      元々陶芸家だったというオーナーの中野さんは、中国料理の資格で最高位とされる「特級厨師」を持つ中国人シェフと知り合ったことをきっかけに中華料理店を経営。中野さん以外のスタッフ全員が中国人という環境のなか、本場・中国の食文化に触れ、次第に中国の飲料文化にフォーカスしていったそうです。

      中野さんが窯を開いた信楽は『朝宮茶』というお茶の産地でもあったことから、日本茶の知識も深めながら国内外のお茶の資格を取得し、2021年に『7T+』をオープンされました。

      店内のカウンターには、入り口側に「緑茶」、店内奥に向かうにつれて酸化発酵が進んだ茶葉が並んでいます。

      茶葉には商品情報や値段などの情報が一切書かれていません。その理由は、「できるだけ客観的にお茶を選んでほしいから」だそう。

      「たとえば、『京都産のお茶とそうでない地方で作られたお茶、どちらを飲まれますか』といわれると、多くの人が京都のお茶を選ぶと思います。『100グラム300円のお茶と3000円のお茶、どちらか差し上げます』といわれれば、せっかくなので高価な方を飲みたくなりますよね。お茶の価値というのは人が決めているだけであって、美味しいかまずいかというよりも需要と供給のバランス。安いからといって美味しくないわけではありませんから」

      一つ一つの茶葉を見てみると、くるくると丸まった茶葉や、林に落ちている枯葉のような茶葉などお茶としては馴染みのない姿形のものから、緑色の細い針に似た茶葉や小さなあられのような粒が混じった茶葉など、なんとなく見覚えがあるようなものも。

      お茶を淹れる前の茶葉はこんな形をしているのかと茶葉そのものの個性に注目せざるを得ないため、まだお茶を飲んでもいないのにすごく面白い。

      「美味しいお茶というのはTPOによっても変わってきます。だから、できるだけ先入観なく選んでいただけるように値段や産地などは伏せています。このなかには、私たちが普段飲んでいるお茶もありますよ」

      7T+では、1978年に中国安東省農業大学の陳教授が提唱した「六大分類法」をベースに、玄米茶や麦茶などお茶として飲まれているが厳密にはお茶ではない「茶外茶」をプラスし、お茶の製法と品質、個性によって7つにカテゴライズされています。

      「世界には2000〜3000もの種類のお茶があると言われており、現代のように世界中のお茶が普及するようになって、自分の求めているお茶になかなかたどり着くことができません。こうやってカテゴリーに分けることによって、お茶への理解がより進むと考えます」

      氵庵 -sanzuian- へ提供したお茶の条件は「本物であること」

      氵庵で提供している抹茶は、7T+によるプロデュース。一口飲むと、抹茶そのものの濃厚な味わいと甘みが感じられます。

      どのようなイメージで、どのようなお茶を提案されたのかを伺うと、「まず、本物であること」という答えが返ってきました。

      「本物の抹茶とはどういうことかというと、一番茶(春のお茶)であること、石臼で引いたお茶であること、そして一定期間太陽光を遮って栽培していること。こうした、本来の「抹茶」と呼べる厳しい条件をクリアしたもののなかから、個性の異なる抹茶を4種類ほどご提案させていただきました」

      さらに、全国の数々のお茶のなかから氵庵に提案していただいたのは、地元京都の「宇治抹茶」でした。これには、氵庵のコンセプトにもある日本文化の発信や再発見といった部分に理由がありました。

      「抹茶は京都で生まれたものであり、京都は伝統的に抹茶の栽培技術に長けている地域。もちろん他県でも上質な国産の抹茶は栽培されているのですが、やはり先駆者は京都です。京都発のブランドである氵庵さんにご提案するにあたり、やはり京都のお茶であることは欠かせない要素だと考えました」

      日本のお茶だけでなく、世界のさまざまなお茶に出会える7T+。それを、この京都という街で発信している意味を聞いてみると意外な答えが返ってきました。

      「“京都といえばお茶”というイメージがありますが、日本のお茶業界が京都を中心に回っているわけではないんです。実は京都は、お茶の生産量で見ると日本全体の10%も満たない。生産量や売上高でいえば静岡や鹿児島の方が多いですし、オーガニック栽培や大量生産に対応した先進的な生産管理などでも鹿児島が業界をリードしています」

      とはいえ、「日本のお茶文化の中心と言われれば、やはり京都なんですよ」と中野さん。

      日本茶って言ったら何を思い浮かべますか?と聞かれたら、私たちは抹茶、玉露、煎茶、緑茶を焙煎したほうじ茶などを思い浮かべますが、これらのお茶の製法はすべて京都で生まれたものなのだそう。

      「そもそも京都の気候は、お茶の生産地としては少し寒いんです。玉露は、栽培段階で霜がおりて葉が枯れるのを防ぐために覆いをしてみたら甘みの強いお茶が出来上がったことがきっかけとも言われていて。(諸説あり)本来お茶にとってやや過酷な環境のなかでもお茶を美味しく飲む方法を編み出した、先人たちの知恵や技術、伝統が長く受け継がれてきた街でもあり、茶道という文化が生まれた場所でもあるこの場所で、日本を含めた世界中のお茶を提案していきたいと考えています」

      茶器はお茶の味を大きく変える

      7T+の店内には、コーヒードリッパーのような器具や陶器の急須、ガラスの器など、茶葉のほかにもいろいろなアイテムが並びます。

      「お茶を飲む器によって味が変わることはあるのでしょうか」と伺ってみたところ、色の異なる2つの急須を見せていただきました。

      「私たちが思っている以上に、茶器や器はお茶の味を変えます。この急須は同じ作家さんが作った同じ形のものですが、それぞれお茶の味が全然違います」

      陶芸では、「焼き締め」といって釉薬をかけて高温で焼くと土肌が焼き締まり、ガラス質に近づきます。元々はどちらも朱色でしたが、酸素を与えながら焼く「酸化焼成」という方法で焼くと朱色のまま、酸素の供給を制限して焼く「還元焼成」という方法で焼くと土はより焼き締まり表面が黒色に変わるそう。

      急須の肌を顕微鏡で見てみるとどちらも小さな孔がたくさんあり、「酸化焼成」で焼いた朱色の急須のほうが孔が大きく、そこに養分や旨みが吸着されるため、朱色の急須で淹れたお茶の方がよりクリアな味に感じられるそうです。

      では、自分好みのお茶を淹れるためには、何を基準に茶器を選べばいいのでしょうか。

      「よく『抹茶は抹茶用のお茶碗を持ってないとダメですよね』なんて聞かれるんですが、そんなことはありません。これは僕の抹茶椀なんですが……」

      と、お店の奥から出てきたのは、なんと有名牛丼チェーン店の非売品の丼。

      「アールや重さ、厚みなど細部まで考え抜かれた究極の茶碗なんですが、これで抹茶を飲むと泡がスーッと流れてきて最高なんです」

      いろんな器を試したなかでこれが完璧、と言い切る中野さん。

      また、インタビュー中にお茶を淹れていただいた美しいガラス製の茶器。透明な茶器のなかで徐々に茶葉が開く様子は、とても美しく、幻想的です。

      特別な茶器かと思い、伺ってみると、

      「コップにプラスチックの板でフタをしているだけです。茶葉ってキレイだな、って思ってもらえるように」

      と、これまた驚きの答えが。

      茶道の世界においては、お茶は文化や礼儀、精神性といった部分まで求められるものですが、私たちが普段飲むお茶はコーヒーと同じく嗜好品。「気軽に楽しんで飲んでいただければ」と中野さんはいいます。

      「反対に、お茶の歴史や文化的背景、飲み方についてあーだこーだと言いながら飲むのもお茶の楽しみ方の一つ。それもまたいいんですよね」

      もう一度お茶に出会う場所になりたい 

      「今、日本も含めて世界のお茶は変革期にあると感じています。スコットランドやイタリア、スペイン、フランス、ドイツなどこれまでお茶を栽培していなかったヨーロッパの国々でもお茶が栽培されています。紅茶だけではなく、緑茶やウーロン茶も作られていて、生産量はまだまだ少ないものの、年々レベルが上がっていると感じますね」

      「また、東南アジアの北部の、人の手で管理・栽培されていない野生に生えている『野生茶樹』と呼ばれるお茶がどんどんクローズアップされていくのではないでしょうか。オーガニックであることは当たり前で、より自然に近く環境負荷の少ないお茶や、香りの高いお茶に注目が集まると考えています。実際にもう、世界の投資はそういったジャンルに集まり始めていますから」

      7T+に来店されるお客様も、東欧の方やニューヨーク、ロンドン、パリなど都市部の人が多いそう。お茶の生産国であり、日常的にお茶を飲んでいる私たちよりも、彼らのほうが世界中のお茶や流行に敏感なのだといいます。

      「日本人1人当たりのお茶の年間消費量は世界のベスト16にも入っていません。私たち日本人が思っているほど、日本はお茶の国ではないんです。世界の緑茶の消費量が全体の3割くらいだと考えると、私たち日本人はむしろマイノリティなんですよね。世界にはまだまだ私たちの知らないお茶がたくさんあって、そのなかから『自分に合うお茶をもう一度探してみませんか』という問いかけを、これまでいくつもの革命的なことを起こしてきた京都のこの地で行う意味があると思っています」

      7T+のコンセプトは、もう一度お茶に出会う場所。

      「あそこのお茶が飲みたいけれど、遠くて行けないな。そう思ったらうちに来てください。ここにくれば、世界中のお茶に出会えますから」


      【取材協力】

      7T+(セブンティープラス)

      京都府京都市下京区塩屋町73-1
      075-708-7199

      OPEN 11:00〜19:00  無休
      (詳しくはInstagramストーリーにて告知いたします)
      https://7teaplus.com


      【店舗情報】

      氵庵 -sanzuian-

      京都府京都市左京区銀閣寺町45
      京都市バス 銀閣寺前から徒歩4分

      OPEN 8:00~17:00
      CLOSE 定休日なし


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