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      甘納豆に恩がある。“種”が持つ価値観を広め、自分にしかできないことを。【インタビュー/SHUKA 近藤健史さん】 #この場所と繋がる瞬間 vol.6

      甘納豆に恩がある。“種”が持つ価値観を広め、自分にしかできないことを。【インタビュー/SHUKA 近藤健史さん】 #この場所と繋がる瞬間 vol.6

      新進気鋭のクリエイターやアーティストとのコラボレーションを通じて、日本文化の美しさや奥ゆかしさ、淑やかさといった新たな側面を提案する『氵庵 -sanzuian- 』。オープン時から、上質なスペシャルティコーヒーや抹茶に合うスイーツとしてご提供しているのは、種と糖だけでつくるタイムレスな菓子ブランド『SHUKA』のお菓子です。

      今回お話を伺ったのは、老舗甘納豆専門店『斗六屋』の4代目であり、『SHUKA』オーナーの近藤健史さん。「甘納豆屋だけにはなりたくなかった」という近藤さんが、なぜ甘納豆を守り、次世代へつなげる新たなお菓子を提案するのか、その理由を伺いました。

      種がもつ個性や生命力を、そのまま味わう

      SHUKAの合言葉は「種を愉しむ」。

      素材としての種と、甘味としての糖。日本古来の食品保存技術である砂糖漬けを用いて、自然の持つ生命力をそのままに感じられるお菓子を提案しています。

      SHUKAは、漢字で菓子と書きます。お客様にお伝えするときは『古くて新しい、種のお菓子です』とご説明しています。日本の食文化の中で古くから食べられている豆だけでなく、海外でグローバルに親しまれてきたナッツ類も取り入れ、それらを総じて私たちは『種』と捉えています」

      のお菓子。それをよく理解できるのが、定番商品6種とドリンクを楽しめる『種菓のコース』。左から順に食べると、それぞれの種の風味や特徴の違いがわかりやすいそう

      「日本人の主食であるお米、うどんや蕎麦も、お味噌汁に使う味噌も、世界の3大穀物であるお米、小麦、コーンなど、元をたどるとすべて種。私たちは日々種を食べ、種に生かされているといえますよね。水や空気のように、私たちにとって欠かせないもののひとつなのに、普段は種を食べて生きているという感覚はありません。それがなんかもったいないなぁと思って。というものの価値、身近さ、面白さをもっとたくさんの方に知っていただきたいというのがSHUKAの想いです」

      種を感じるをコンセプトとして作られた店舗は、表札がわりの土壁をはじめ、壁や床、天井まで一面土製のものでできており、天井にある天窓からは、太陽の光が差し込みます。これは、土の中に植えられた種が、空に向かって目を出すときの様子を再現しているそうです。「種の気持ちになっていただけるようなお店です」と近藤さんはいいます。

      「甘納豆屋だけにはなりたくない」から「自分しかできないこと」へ

      甘納豆専門店の4代目として生まれた近藤さん。1926年、近藤さんの曽祖母が祇園で『斗六屋』を創業し、戦中に現在の場所に移転。近藤さんが家業に入るまでは、卸向け甘納豆の製造を行ってきました。

      近藤さん自身は家業を継ぐ気はなく、むしろ「甘納豆屋にだけは絶対になりたくない。甘納豆屋以外ならどんな仕事でもいい」というほどだったそう。

      「子供の頃、友達に『甘い納豆なんて気持ち悪い』とからかわれたんです。友達はきっと甘納豆のことをネバネバした納豆を甘くしたものくらいに思ったんでしょうけれど、多感な時期だったので、自分の弱みを見られたようですごくショックでした」

      この出来事以降、家業を恥ずかしいと思うようになり、「自宅の隣にある工場に近寄ることもなければ、視界にすら入らないようにしていた」といいます。

      小さい頃から生き物が好きだった近藤さんは、大学で微生物について学び、大学院へ。転機となったのは、就職活動中、「社会勉強に」と家業を手伝ったことでした。

      「卸を専門にしていた斗六屋でしたが、地元の壬生寺で行われる節分祭の期間だけは毎年お店を出していました。その頃は家業への嫌悪感もだいぶ薄れていましたし、給料ももらえるし……と軽い気持ちで手伝ったのですが、3日間で2000人を超えるお客様が来られて、正直とても驚きました。歴史のある節分祭に毎年出店していたことも、これだけの方が毎年うちの甘納豆を楽しみにしてくれていることも知りませんでしたし、お客様の顔を見て商品を手渡して、お金をもらって、『毎年ありがとうね』と言っていただく、シンプルでとてもいい仕事だなぁと思いました」

      また、近藤さんが家業を継ぐ決心をしたのには、もう一つ理由が。

      「私が大学院まで進むのにかかった学費を甘納豆に換算したら、一体どのくらいなんだろう、とふと考えたんです。計算してみたら、奈良の大仏と同じくらいの重量の甘納豆が必要だとわかって。甘納豆にすごく恩があるなと感じるようになりました。

      「自分しかできない仕事を、ずっと探していた気がする」と近藤さん。斗六屋の後継ぎとして甘納豆を残していきたいという思いが次第に強くなり、大学院卒業後、滋賀の老舗菓子店に就職して製菓の知識を幅広く身につけたのち、20代半ばで斗六屋に入りました。

       甘納豆の常識から脱却した、まったく新しい種のお菓子

      SHUKAの特徴のひとつに、これまでの甘納豆にはなかった歯応えのある食感があります。これは、お客様の声からヒントを得たものだそう。

      甘納豆に携わるなかで、多くの人が「昔のお菓子」「お年寄りが食べるもの」「甘すぎる」というイメージを持っていることがわかりました。甘納豆の認知度を高めるには、若い世代や海外のお客様にも知っていただく必要があると考えた近藤さんは、イタリアで開催された、世界中のスローフードが集まる品評会に出店。しかし、甘納豆は全くウケなかったそうです。

      豆は海外でも日常的に食べられているのに、豆を甘く煮た甘納豆は受け入れられなかい。では、みんなどんなお菓子を食べているのだろう、とイタリアの街を歩いてみると、たくさんの人がチョコレートとジェラートを食べていることに気づきました。そこからインスピレーションを受けて生まれたのが、カカオ豆を砂糖漬けにしたSHUKAの代表作『カカオ』です。

      「コロナ禍でネット販売に注力し、たくさんのメディアでSHUKAの商品を紹介していただきました。あるとき、『カカオ』を購入されたお客様から『固くて美味しいですね』と言っていただいたんです。これまでほとんどのお客様が60代以上の方だったので、美味しいかどうかという以前に、柔らかくないと食べてもらえないと思い込んでいました。ギリギリ形の残ったあんこのようなイメージで甘納豆作りを行ってきましたが、『カカオ』に関しては、豆自体が硬くどんなに手を加えても少し食感が残ってしまいました。それが意外な反応をもらえたことで、食感も美味しさの要素の一つになるのだという新しい発見がありました」

      また、甘納豆の概念を変えるためには、甘納豆という名前や商品開発ではなく、ブランドそのものから変えていくべきだと考えた近藤さん。歴史のある斗六屋の世界観はそのままに、新たにに着目したブランドを立ち上げることに。

      「カカオ豆も、甘納豆に使っている豆も、ぞれぞれの植物の種。これまで甘納豆という名前に強くこだわっていましたが、人の手が加わり過ぎていない、昔ながらの甘納豆の持つ価値観を残すことに意味があると考えました」

      外国人観光客の多い銀閣寺周辺。氵庵-sanzuian-へ提供したのは、海外の方にも受け入れてもらいやすい商品

      2024年の『氵庵-sanzuian-』オープンにあたり、日本の食文化を体感できるお菓子としてSHUKAの商品を提供していだきたいと近藤さんへオファー。

      「海外の方にも楽しんでいただけるお菓子を、ということだったので、私たちとしても甘納豆を通して日本の食文化を知ってもらえるいい機会だと思いました。個人的に銀閣寺が好きですし、SHUKAはどちらかといえば金閣寺ではなく銀閣寺のイメージだなぁということもあって(笑)」

      セレクトしたのは、海外の方にとって親しみもある『カカオ』、白あんのような優しい味わいの『斗六豆(白花豆)』、日本で馴染みのある小豆と海外でよく知られているピスタチオとカシューナッツをバランスよく入れた『ミックス』。どれもSHUKAの定番商品です。

      「日本の緑茶に合う白花豆は、抹茶とも相性がいい。味噌のような発酵感、ドライフルーツのような果実の風味を感じるカカオはコーヒーと合わせると美味しさが増します。食感と素材の味を生かしたSHUKAのお菓子は、こうしていろんな飲み物とのペアリングを楽しめることも特徴です」

       また、SHUKAのお菓子は、お酒との相性もとてもいいそう。例えば、ピスタチオは白ワインとかスパークリングワイン、少し酸味のある日本酒と。また、カカオは赤ワインやウイスキーなど、チョコレート感覚で楽しむとより一層美味しさが引き立ちます。

      「お仕事終わりや週末などに、ご自身のちょっとゆっくり過ごせる時間に、お好きな飲み物やお気に入りの器とともに、が与えてくれるゆったりとしたひとときを楽しんでいただきたいです。その人なりの楽しみ方を見つけていただくことも含めて、種を愉しむということだと思っています」

      食べる楽しみに加えて、作る楽しみ、育てる楽しみも味わっていただきたい

      今後は、種を育てる楽しみや、種に親しんでいただける取り組みを広げていきたい、という近藤さん。

      「たとえば、お客様に豆をお配りし、ご自宅で育てて収穫した豆を持ってきてもらって、お菓子にしてみんなで美味しくいただく……といった、自然の営みのなかにある一連の流れを体感していただけるイベントやコミュニティづくりができたらいいなと思っています」

      通常、植物は土の中から窒素を吸収しますが、豆類には空気中にある窒素を吸収して土壌に戻す性質を持っています。こうした窒素を土の中に戻すことができるのは、豆科の植物と、雷が発生した際のエネルギーによる自然現象だけしかないそうです。

      「そんなすごいことを、豆はこっそりやってくれている。だから私は、たくさんの人に豆を植えてもらって、豆や種のことをもっと知ってほしいと思っています」

      まさに、縁の下の力持ち。肥料もいらず、お子さんでも育てやすい植物なので、ある日ひょこっと芽が出たり花が咲いたりして植物の成長を間近で見ることができ、実が成って豆を収穫できればひとつの成功体験に繋がります。また、収穫した豆を料理して食べることで、食べものを大切にする気持ちや作り手の思いも感じていただけるはず。

      「あくまでもお菓子は、お客様とつながる手段の一つ。種を通して、古くからの製法で作られているお菓子や、私たちのような仕事があることを伝え、日本の食文化を繋いでいく大切さを伝えていきたいです」 

      小さな茶屋あとを改装した、日本文化の発信拠点『氵庵-sanzuian-

      銀閣寺の門前にある小さな茶屋あとを改装したカフェ&ギャラリー『氵庵 -sanzuian- 』。日本の文化を室町時代に生まれた東山文化を象徴するこのエリアで、京都珈琲焙煎所 旅の音のコーヒーを始め、上質なお茶や菓子とともに、日本文化の美しさの新たな側面を提案しています。

       【店舗情報】
      氵庵 -sanzuian-

      〒606-8402
      京都府京都市左京区銀閣寺町45
      京都市バス 銀閣寺前から徒歩4
      OPEN 8:00~17:00
      CLOSE
      定休日なし

       

      【取材協力】

      SHUKA 京都本店

      604-8856 京都市中京区壬生西大竹町3-1(斗六屋西隣)
      営業時間:火〜日 11:00-17:30 (2F Cafe L.O.17:00)
      定休日:月曜
      075-841-8844
      https://shuka-kyoto.jp/
       

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